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④妊娠授乳関連骨粗鬆症(PLO)による脊椎骨折

妊娠授乳関連骨粗鬆症(PLO)という言葉を聞かれたことはありますか?

産後骨粗鬆症や妊娠骨粗鬆症と言われることもありますが同じ意味です。

ここではまれですが妊娠や産後に骨粗鬆症が原因で背骨が骨折するという病気をご紹介します。この病気は比較的多いですが気が付かれない方も多いです。

あなたの危険度クイズ

さて、まずはクイズです。

下の表は私たちが当院で出産された方にお願いしてPLOの調査をしたときに使用したアンケートです。

あなたはいったい何点になるでしょうか?

このアンケートは点数が高いほど骨密度が低いために骨折する可能性があります。

妊婦さん300名の調査で、95%以上の方は20点未満でしたが、最高点は34点でした。高ければ必ず骨折するとは言えませんが、20点以上の方はPLOに気をつけ、毎日の生活を見直すきっかけにしてほしいと思います。

実は原因はよくわかっていません

母親が骨粗鬆症で骨折歴があるなどの先天的要因に加えて、低体重、カルシウム摂取不足、運動不足などの後天的な要因があると言われています。

それ以外にはステロイド使用、クローン病やセリアック病などの腸の病気、妊娠中の抗凝固剤使用、甲状腺機能亢進症、クッシング症候群、腎臓病など骨粗鬆症が起こりやすい病気でも発症することがあると指摘されています。

ちなみに我々が過去5年間で20~30代の女性の脊椎骨折10例の原因を調べると、交通事故など明らかな外傷が3例、クローン病や潰瘍性大腸炎が3例、ネフローゼ症候群が2例、そしてPLOが2例でした。

ですので若くても比較的ささいな原因(転倒など)で骨折された方は要注意と言われています。

また低体重(BMIで18.5未満)も大事な要因と言われています。しかし調べてみると確かに低体重の人にも多いですが、必ずしもそうとは言えないので注意が必要です(図1)。

これも原因は判りませんが骨折例は初産婦が多く、だいたい7割は初産婦の方です。経産婦の方で初回に加えて2回目の妊娠・出産でも骨折する割合は約20〜25%と言われており、私たちはその予防にも力を入れています。

どんな症状があるのでしょうか・・?

症状は腰や背中の痛みです。特に動作時や咳やくしゃみで、背中から腰にかけての痛みが走ります。

発症時期は妊娠後期から産後半年(長くても1年)以内に多いです。骨折の原因は次のように考えられています。

妊娠後期になると赤ちゃんの骨を作るために母体より胎盤を通じてカルシウムが供給されます。お母さんのカルシウムが減りますが、妊娠中は胎盤から大量のビタミンD が放出されるため、食事で摂取したカルシウムが腸管から吸収されるのを助けて不足分を補っています。

しかし出産後は胎盤がなくなりますのでビタミンDの供給が減ります。ですから同じ量のカルシウムを取っていても腸からの吸収が激減します。さらに授乳によりカルシウム(日本人で1日当たり200-250㎎)がお母さんから乳児へ移動します。その不足分はお母さんの骨から補うので、母親の骨粗鬆症が進行し骨折を起こすのです。

骨折部位は肋骨、手関節、脊椎、大腿骨頚部など通常の高齢者の骨粗鬆症と同じです。栄養状態が良い日本では大腿骨骨折は起こることは少ないですが、脊椎骨折は比較的多いです。

20代、30代では軽い転倒で骨折することは珍しいですが、妊娠授乳関連骨粗鬆症では起こるのです。脊椎骨折をおこすと痛みが強く赤ちゃんのお世話ができないので、入院されることが多いです。

代表的な方をご紹介します。お二人とも30代前半です。

最初の方は第2子出産後で、第1子のときは特に症状はありませんでした。2人目は初産婦で出産後5か月です。2人とも多くの椎体骨折をMRI検査で認めます(図2、図3)。

図2 第2子出産後5か月で骨折

原因:授乳中座位から転倒 骨密度:YAM89% BMI:21%

レントゲンではほとんどわからなかったが、MRIで第9、10、11胸椎の圧迫骨折(椎体上部の白い部分)を認めた。椎体と椎体に間の白い部分は椎間板を示しますが、この方の場合は正常です。

図3 第1子出産後5か月で骨折

原因:なし 骨密度:YAM65% BMI:19%

胸椎を横から見たところです。MRIで白くなっている部分(第4、第7、第9、第10胸椎)の圧迫骨折があります。7番目の骨折が一番よくつぶれています。YAM値が65%と非常に低いです。

骨粗鬆症の検査には血液検査と骨密度検査があります。

骨粗鬆症の検査には血液検査と骨密度検査があり、血液検査ではTRACP-5bなどの骨吸収の指標検査やP1NPなどの骨形成の指標検査をおこない、骨吸収と形成のバランスを見ます。

骨粗鬆症ではTRACP-5bが正常値を超えて増加します。骨密度検査は超音波で測る方法とレントゲンを使う方法がありますが、レントゲンのほうがより正確です。

当院では妊娠中は超音波、出産後はレントゲンで測っています。骨密度は若い時との比較であるYAM値で判定することが多く、閉経後骨密度測定では70%以下で骨粗鬆症と診断されます。若い人の骨密度異常値の定義はありませんが、やはり70%を目安とすることが多いです。

腰痛や背部痛が続くとレントゲンやMRIで調べますが、比較的軽い骨折の場合はレントゲンでは映らないことが多く、MRIでの検査が必要です。

ですので妊娠後期や産後に腰痛や背中の痛みが続く場合は整形外科を受診されてMRI検査がおすすめです。

当院での治療方法

骨折を起こすと鎮痛薬やコルセットで治療をします。

痛みが取れるまでは数か月間かかりますので、骨折を起こさないように予防が大切です。骨折された方にはビタミンDを服用してもらい、骨密度の低下に応じて副甲状腺ホルモン治療薬(注射)やビスフォスホネート製剤(飲み薬)で治療をします。普通は骨折すると母親のカルシウム値を保つため母乳授乳を中止する施設が多いです。

しかし母乳は赤ちゃんにとって重要な栄養ですので、当院では産婦人科、小児科、整形外科が連携をして断乳をしないで治療する方法をとっています。

ご自分の骨密度を知ることが重要!

PLOの予防で一番大事な点はご自分の骨密度を知ることです。

とくにやせて食事量が少ない人、好き嫌いが多く偏食のある人、骨折歴のある人は注意が必要で、できれば妊娠前に骨密度の測定をお勧めします。

YAM値が80%を切っていれば要注意ですので、医師にご相談ください。

ほかには食事でしっかりとカルシウムを取り、運動をすると骨が強くなります。どんな運動をするとよいかわからないという方には水泳をお勧めします。そのほかにも体操やダンスのステップなども良いと思います。このHPの運動療法の項目も参考にしてください。

また初産婦の方はいちど産婦人科の先生にご相談の上で運動を始めることをお勧めします。